ピオトロスキーの F スコアを式で再現する:9つの財務シグナルで改善中の会社を探す

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米国の研究者ピオトロスキーが考案した F スコアの9つのシグナルを、企業データラボのカスタム列で再現する式を紹介します。比べる演算子を使わずに0と1の判定を作るコツと、PBR と組み合わせた使い方を解説します。

割安な会社の中から、本当に良くなっている会社をどう選びますか

  • PBR が低い会社のうち、財務が改善している会社はどこか
  • 利益・資金繰り・効率のどこが良くなり、どこが悪くなっているのか
  • 1年だけの好転ではなく、改善が続いている会社を見分けられないか

PBR の低い会社には、事業が傷んでいて安く放置されている会社も、改善の途中でまだ評価されていない会社も混ざっています。両者を見分けるには、前の期と比べて財務の何が良くなったかを、項目ごとに確かめる必要があります。

ところが、利益・キャッシュ・フロー・借入・流動比率・粗利率・回転率などを、前の期と1つずつ比べる作業を全上場企業で行うのは、手作業ではとてもできません。改善が続いているかまで見ようとすると、さらに前の期にもさかのぼる必要があります。

F スコアの9つの式で、財務の改善を0〜9点で採点できます

F スコアは、米国の研究者ジョセフ・ピオトロスキーが2000年に発表した、財務の健全さの改善を9つのシグナルで採点する方法です。収益性・財務の安全性・効率の3つの面で、前の期より良くなっていれば1点ずつ足し、0〜9点で評価します。

元の研究では、PBR の低い会社の中で F スコアの高い会社を選ぶと、成績が良かったと報告されています。割安な会社の中から「本当に良くなっている会社」を選び出すための道具です。

0か1かを作るコツ

カスタム列の式では、> や < の比較は使えません。そこで、判定したい値に大きな数を掛けてから、MIN と MAX で0〜1に挟みます。

「値がプラスなら1、そうでなければ0」
判定 = MIN(1, MAX(0, 値 × 1000000))

値がわずかでもプラスなら100万倍して1を超え、1にそろいます。ゼロ以下なら0です。比率の差のような小さな値でも、ほとんどの場合0か1になります(差が100万分の1より小さいときだけ、0と1の間の値になります)。

収益性の4つのシグナル

F1_黒字
F1 黒字 = 当期純利益がプラスなら1、そうでなければ0
F2_営業CF黒字
F2 営業CF黒字 = 営業キャッシュ・フローがプラスなら1、そうでなければ0
F3_ROA改善
F3 ROA改善 = 今期の ROA(当期純利益 ÷ 総資産)が1期前の ROA より高ければ1、そうでなければ0
F4_利益の質
F4 利益の質 = 営業キャッシュ・フローが当期純利益を上回れば1、そうでなければ0

F3 の ROA は、元の研究では期首の総資産で割りますが、ここでは期末の総資産で簡単にしています。F4 は、営業キャッシュ・フローが当期純利益を上回っていれば1点です。利益が現金で裏付けられているかを見ています(詳しくは「利益の「質」を測る3つの式:会計発生高・キャッシュ転換率・売上債権の先行」を参照)。

財務の安全性の3つのシグナル

F5_長期借入の比率が増えていない
F5 長期借入の比率が増えていない =「長期の有利子負債 ÷ 総資産」が1期前より減っているか変わらなければ1、増えていれば0
F6_流動比率改善
F6 流動比率改善 = 今期の流動比率(流動資産合計 ÷ 流動負債合計)が1期前より高ければ1、そうでなければ0
F7_株式が増えていない
F7 株式が増えていない = 期中平均株式数が1期前より減っているか変わらなければ1、増えていれば0

F5 と F7 では、判定の前に小さな数(0.000001・0.5)を足しています。こうすると「減った」だけでなく「変わらない」も1点になります。元の研究は「減っていれば1点」ですが、そのままだと借入の無い会社がいつまでも0点になってしまうので、日本の無借金の会社が多いことに合わせて調整しています。

F7 は、新株を発行して株式数が増えていないかを見ます。株式分割をした年は株式数が大きく増えるため、その年だけ0点になります。分割のあった会社は、適時開示で確かめてください(分割の影響は「株式分割は PER・PBR・時価総額にどう影響するか」で説明しています)。

効率の2つのシグナル

F8_粗利率改善
F8 粗利率改善 = 今期の売上総利益率(売上総利益 ÷ 売上高)が1期前より高ければ1、そうでなければ0
F9_総資産回転率改善
F9 総資産回転率改善 = 今期の総資産回転率(売上高 ÷ 総資産)が1期前より高ければ1、そうでなければ0

合計して F スコアにする

Fスコア
F スコア(0〜9点)= F1 から F9 までの9つの判定(それぞれ0か1)の合計

8〜9点は財務が全体として良くなっている会社、0〜2点は悪くなっている会社です。点数だけで判断せず、どのシグナルで点を落としているかを列で確かめると、改善と悪化の中身が分かります。

1年の改善か、続いている改善か

F スコアは前の期との比較なので、1年だけ良くなった会社も高い点になります。改善が続いているかを見るには、同じ判定を1期ずらして、2年分を掛け合わせます。

ROA改善が2年続く
ROA改善が2年続く = 今期の ROA が1期前より高く、かつ1期前の ROA が2期前より高ければ1、そうでなければ0
営業CF黒字が3年続く
営業CF黒字が3年続く = 今期・1期前・2期前の営業キャッシュ・フローがすべてプラスなら1、そうでなければ0
Fスコア持続版
F スコア持続版(0〜11点)= F スコア + ROA改善が2年続く + 営業CF黒字が3年続く

0〜11点になり、9点以上は「財務が良くなっていて、しかもそれが続いている会社」です。3期分のデータを使うことで、景気の追い風で1年だけ数字が良くなった会社をふるい落とせます。

PBR と組み合わせる

元の研究に近い使い方は、PBR の低い会社に絞ってから F スコアで並べることです。一覧で PBR を並べ替え、低い方から一定の割合の会社に絞り、その中で F スコアの高い会社を候補にします。

割安で改善中の点
割安で改善中の点 = F スコア ×(PBR が0.5倍以下なら1、1.5倍以上なら0、その間は比例する重み)

PBR 0.5倍以下で F スコアをそのまま、1.5倍以上で0点になるように重みを掛けた例です。PBR が低いのに財務が改善している会社ほど、点数が高くなります。

注意点

  • 銀行・証券・保険は、借入や流動比率の意味が違うので外す
  • 前の期のデータが無い会社(上場して間もない会社)は、比べるシグナルが空欄になる
  • M&A で総資産が大きく変わった年は、ROA や回転率の改善が実態と離れることがある
  • F スコアは「改善」を見る指標。水準の高さは、ROE や営業利益率など別の列で確かめる

企業データラボなら、全上場企業の F スコアを一度に並べられます

企業データラボでは、9つのシグナルの列と合計の列を一度作れば、約3,700社の F スコアが決算のたびに計算し直されます。前の期との比較は「[1]」「[2]」で過去の期を参照するだけなので、持続版の式も同じように書けます。

PBR で絞り込んでから F スコアで並べ替える、シグナルの列を残して点数の理由を確かめる、気になる会社を競合と並べる、といった使い方がその場でできます。

9つのシグナルと合計の列を一度作れば、約3,700社の F スコアが並び、前の期との比較も自動で計算されます。

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