損益分岐点を決算書から推定する:固定費と安全余裕率を競合と比べる式

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公開されている決算書には、固定費と変動費の内訳は載っていません。過去4期の売上と営業利益の変化から限界利益率を推定し、固定費・損益分岐点・安全余裕率・営業レバレッジを全上場企業で計算する方法を解説します。

競合のコスト構造、決算書から読み取れていますか

  • 売上が1割減ったら、どの会社の利益がいちばん大きく削られるのか
  • 競合の固定費は、自社と比べて重いのか軽いのか
  • 損益分岐点まで、各社にどれだけ余裕があるのか

損益分岐点や安全余裕率は、不況への強さを測る代表的な指標です。ただし、計算には固定費と変動費の内訳が必要で、これは公開されている決算書には載っていません。そのため、競合の損益分岐点を比べるのは難しいと考えられてきました。

内訳が無くても、何期分かの売上と利益の動きから推定する方法はあります。ただ、会社ごとに4期分の決算を並べて計算し直す作業になるので、競合を何社も、まして全上場企業を手作業で比べるのは現実的ではありません。

売上と利益の変化から、固定費と損益分岐点を推定できます

期と期の間の売上高と営業利益の変化から、固定費と変動費を逆算して推定します。管理会計の「高低点法」と同じ考え方を、全上場企業の公開データに当てはめるものです。基本になるのは、次の式です。

損益分岐点の基本の式
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

考え方:売上が増えた分だけ、利益はどれだけ増えたか

費用が「固定費 + 変動費率 × 売上高」で決まると仮定します。固定費は売上が変わっても変わらないので、2つの期の差を取ると消えます。すると、売上の増えた分に対する営業利益の増えた分が、限界利益率(売上1円あたりに残る利益)になります。

推定の式
限界利益率 = 営業利益の変化 ÷ 売上高の変化

1つの組み合わせだけで推定すると、その年の特殊な事情に左右されます。そこで、今期と1期前・2期前・3期前のそれぞれとの差から3通りの限界利益率を出し、その中央値を使います。4期分のデータを使うことで、1組だけの偶然に引きずられにくくなります。

限界利益率
限界利益率(%)= 今期と1期前・2期前・3期前のそれぞれとの「営業利益の差 ÷ 売上高の差」(3通り)の中央値 × 100

固定費・損益分岐点・安全余裕率

限界利益率が分かれば、あとは順に計算できます。

推定固定費
推定固定費 = 限界利益率 ÷ 100 × 今期の売上高 − 今期の営業利益
損益分岐点売上高
損益分岐点売上高 = 今期の売上高 − 今期の営業利益 ÷(限界利益率 ÷ 100)(= 推定固定費 ÷ 限界利益率)
安全余裕率
安全余裕率(%)= 今期の営業利益 ÷(限界利益率 ÷ 100 × 今期の売上高)× 100(= 1 − 損益分岐点売上高 ÷ 売上高)
営業レバレッジ
営業レバレッジ(倍)=(限界利益率 ÷ 100 × 今期の売上高)÷ 今期の営業利益(限界利益 ÷ 営業利益)

計算例

たとえば、売上高が3期前から順に850億円・800億円・900億円・1,000億円、営業利益が55億円・40億円・70億円・100億円の会社では、3通りの限界利益率はどれも30%で、中央値も30%です。固定費は 0.3 × 1,000 − 100 = 200億円、損益分岐点売上高は約667億円、安全余裕率は約33%、営業レバレッジは3倍と推定できます。

「売上が1割減ったら」を全社で試算する

営業レバレッジは、売上高が1%動いたときに営業利益が何%動くかを表します。3倍なら、売上が10%減ると営業利益は30%減ります。この関係を使うと、不況のときの利益を全社で試算できます。

売上1割減のときの営業利益
売上1割減のときの営業利益 = 今期の営業利益 − 限界利益率 ÷ 100 × 今期の売上高 × 0.1

競合と並べると、同じ売上の落ち込みでも、どの会社の利益が大きく削られるかがひと目で分かります。過去の実際の落ち込みは「不況に強いディフェンシブな会社を探す:5期の最低と中央値で落ち込みを測る」の式で確かめられます。経営企画では、自社の固定費の重さを競合と比べ、コスト構造の見直しの目標を立てるときの材料になります。

推定が使える会社・使えない会社

この推定は「比べる期の間でコストの構造が変わっていない」ことが前提です。次のような会社では、限界利益率が0%を下回ったり100%を上回ったりして、意味のない値になります。

  • 比べる期の間で売上高がほとんど変わっていない(割り算の分母が小さすぎる)
  • 値上げ・値下げで、売上に対する原価の割合が変わった
  • 原材料や人件費の単価が大きく上がった時期(インフレ期)は、コストの単価の上昇が「売上に比例する費用」に混ざり、限界利益率が低く(固定費が小さく)偏って推定される
  • M&A や事業の売却で、事業の範囲が変わった
  • 大きな一時的な費用(減損・リストラ費用)が営業利益に入っている

使える会社を見分けるために、売上の変化の大きさを点数にした列を作っておくと便利です。

推定の確かさ
推定の確かさ = 1期前・2期前・3期前との売上高の差のうち最も小さいものが、今期の売上高の3%以下なら0、10%以上なら1、その間は比例

限界利益率の3通りの推定のそれぞれについて、比べる2つの期の売上の差を見て、いちばん小さい差が今期の売上の3%以下なら0、10%以上なら1です。どれか1つでも売上の差が小さい組があると、その組の推定がぶれ、中央値も不安定になりやすいためです。3通りの限界利益率が大きくばらつく会社も、推定が不安定なしるしです。この値が低い会社の推定は参考程度にとどめ、限界利益率が売上総利益率から大きく離れていないかもあわせて確かめましょう。

企業データラボなら、競合の損益分岐点を全上場企業で一度に推定できます

手作業では会社ごとに4期分の決算を並べる計算ですが、企業データラボでは「[N]」で過去の期を参照する式を1つ作れば、約3,700社の固定費と損益分岐点の推定値が並びます。決算が出るたびに、推定も自動で計算し直されます。

安全余裕率や売上1割減のときの営業利益で並べ替える、推定の確かさで絞り込む、自社と競合を並べてコスト構造を比べる、といった使い方がその場でできます。公開データだけで競合のコスト構造に踏み込めるのが、式で分析する強みです。

公開データだけで競合の固定費と損益分岐点を推定し、約3,700社を同じ式で並べられます。

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