現金と投資有価証券を差し引いた「実質 PER」:資産の厚い日本企業を正しく比べる

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一般的な実質 PER(ネットキャッシュを差し引いた時価総額 ÷ 純利益)の式と、事業に必要な現金を残し、投資有価証券も税を考えて差し引いたうえで本業の利益と比べる、より踏み込んだ実質 PER の式を解説します。

PER が低いのは、事業が割安だからでしょうか、資産が多いからでしょうか

  • 時価総額のうち、現金や投資有価証券が占める割合はどのくらいか
  • 余った資産を除くと、市場は事業そのものにいくらの値段を付けているのか
  • 自社の株価が低く見られている原因は、事業なのか、資産の使い方なのか

PER(株価収益率)は、時価総額を当期純利益で割った指標です。ところが日本には、時価総額の半分以上を現金や投資有価証券が占める会社も少なくありません。その場合、PER は「事業の割安さ」と「余った資産の多さ」を区別できません。

この2つを分けるには、会社ごとに貸借対照表の現金・投資有価証券・借入を拾い、時価総額から差し引いて計算し直す必要があります。株価は毎日動くので、全上場企業について手作業で計算し続けるのは現実的ではありません。

余った資産を差し引く式で、事業の割安さを取り出せます

時価総額から余った資産を差し引けば、市場が事業そのものに付けている値段が分かります。これを本業の利益と比べたものが実質 PER です。まず一般的な形を示し、そのあと、より踏み込んだ形を紹介します。

一般的な実質 PER

よく使われる実質 PER は、時価総額からネットキャッシュ(現金 − 有利子負債)を差し引き、純利益で割ったものです。ネットキャッシュの考え方は「ネットキャッシュの計算方法:実質的な手元資金を比べる」で説明しています。

一般的な実質PER
一般的な実質PER(倍)={時価総額 −(現金及び預金 − 有利子負債)}÷ 親会社株主に帰属する当期純利益

ここからもう一歩進めます。事業に必要な現金は残し、投資有価証券も税を考えて差し引いたうえで、事業の価値を本業の利益(税引後の営業利益)と比べます。考え方としては、企業価値を税引後営業利益で割る倍率(EV/NOPAT)に近いものです。

ステップ1:余った資産を見積もる

手元の現金をすべて余りと見なすのは行き過ぎです。事業を回すには、ある程度の現金が必要だからです。ここでは、月の売上高の1.5か月分を事業に必要な現金と置き、それを超える分を余りとします。

投資有価証券(持ち合いの株式など)は、売るときに税金がかかり、すぐに売れないことも多いので、7割の価値で数えます。借入は余った資産から差し引きます。

余剰資産
余剰資産 =(現金及び預金 − 売上高の1.5か月分。マイナスなら0)+ 投資有価証券・関係会社投資 × 0.7 − 有利子負債(短期・長期)

売上高 ÷ 8 は、売上高 ÷ 12 × 1.5(1.5か月分)を短く書いたものです。必要な現金に届かない会社は、現金の余りを0として、マイナスにならないようにしています。

ステップ2:事業の価値と本業の利益を比べる

時価総額から余剰資産を引いたものが、市場が事業そのものに付けている値段です。これを、本業の利益(税引後の営業利益)で割ります。当期純利益ではなく営業利益を使うのは、余剰資産から生まれる受取配当や利息を利益からも外し、分子と分母の範囲をそろえるためです。

事業の価値
事業の価値 = 時価総額 − 余剰資産
実質PER
実質PER(倍)= 事業の価値 ÷(営業利益 × 0.7)
時価総額に占める余剰資産
時価総額に占める余剰資産(%)= 余剰資産 ÷ 時価総額 × 100

1年の営業利益は、大きな案件や一時的な費用で上下します。分母を3期の平均にした版も並べると、「たまたま利益の多い年だったから実質 PER が低く見える」会社を見分けられます。

実質PER3期平均
実質PER(3期平均・倍)= 事業の価値 ÷(今期・1期前・2期前の営業利益の平均 × 0.7)

読み方

  • 実質 PER が PER よりかなり低い:余った資産に隠れて、事業が割安に評価されている
  • 実質 PER がマイナス:時価総額が余剰資産より小さい。市場が事業の価値をマイナスと見ている(資産の使い方への不満の表れのことも多い)
  • 時価総額に占める余剰資産が50%を超える:株主還元や資産の活用の方針が、株価に大きく影響する

経営企画・IR での使い方

自社の実質 PER が競合より低い場合、市場は事業ではなく「資産の使われ方」を低く評価している可能性があります。余剰資産の比率とあわせて競合と並べると、株主還元や成長投資の方針を説明する材料になります。PBR 1倍割れの改善を考えるときにも、どこに原因があるかを切り分ける助けになります。

調整の仕方

  • 関係会社の株式は事業の一部と見る場合:投資有価証券・関係会社投資を外し、現金だけで計算する
  • もっと保守的に見る場合:投資有価証券の掛け目を0.5にする
  • 現金を多く持つ必要がある業種(建設の前受金など):必要な現金を月の売上の3か月分(売上高 ÷ 4)にする

注意点

  • 時価総額は今日の値、余剰資産は直近の決算期末の値。決算期末から時間がたつと、ずれが大きくなる
  • 子会社に少数株主がいる会社では、非支配株主持分の分だけ事業の価値を多めに見積もっている(この式では差し引いていない)
  • 銀行・証券・保険は、現金や有価証券が事業そのものなので外す
  • 営業利益が小さい・赤字の会社は、実質 PER が極端な値になる
  • 投資有価証券の帳簿の値は、関係会社の株式では時価と違うことがある

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実質 PER や余剰資産の比率で並べ替える、業種で絞って競合と比べる、掛け目や必要な現金の月数を変えた列を並べて前提による違いを比べる、といった使い方がその場でできます。

時価総額と財務の科目、過去3期の利益を1つの式で組み合わせ、株価が動くたびに実質 PER を計算し直せます。

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