
政策保有株の多さと削減の進み具合を、3期の推移で比べる
企業データラボ
投資有価証券が純資産のどれだけを占めるかと、3期前からどれだけ減らしたかを計算する式を紹介します。政策保有株の近似として使うときの注意と、保有株を手放したときの資本の効率への影響の試算まで含めて、削減が進んでいる会社・進んでいない会社の見分け方を解説します。
政策保有株の削減は、本当に進んでいるのでしょうか
- この会社は、純資産に対してどれだけの株式を持っているのか
- 「削減を進める」という方針どおり、3期前より実際に減っているのか
- 保有株を手放したら、ROE はどれくらい上がるのか
- 自社の削減のペースは、競合と比べて速いのか遅いのか
取引先との関係のために持つ株式(政策保有株)は、資本の効率を下げる要因として、投資家から削減を求められることが増えています。ただ、政策保有株は何年もかけて少しずつ売るものなので、1年の水準だけでは「多い・少ない」しか分かりません。方針が実際に進んでいるのかを知るには、何期か前の残高までさかのぼって比べる必要があります。
1社ずつ有価証券報告書をめくって3期分の残高を拾い、競合や投資先の分まで表にまとめるのは、それだけで大仕事です。多くの会社を同じ物差しで並べるとなると、手作業では現実的ではありません。
3期前と比べる計算式で、削減の進み具合が見えてきます
考え方の要点は、保有株の「今の重さ」と「3期でどれだけ減ったか」を分けて測ることです。3期前と比べれば、削減の方針が実際に進んでいるのか、言葉だけなのかが見えてきます。さらに、保有株を手放したと仮定したときの ROE を試算すれば、保有が資本の効率をどれだけ押し下げているかも分かります。
最初にお断りしておくと、ここで使う「投資有価証券・関係会社投資」は、政策保有株そのものではなく、その近似です。純粋な投資のための株式や、持分法を使う関係会社の株式(事業として持つ株式)も含まれます。正確な政策保有株の額は、有価証券報告書の「株式の保有状況」で確かめてください。この記事の式は、多くの会社を同じ物差しで並べ、詳しく確かめる会社を選ぶためのものです。
保有株の重さと、3期の削減を測る
削減率は、3期前の残高から何%減ったかです。総資産比率の変化は、会社の大きさに対する保有株の割合が何ポイント動いたかで、会社が成長している場合でも比べやすい物差しです。
保有株を手放したときの資本の効率を試算する
保有株を売って、その分の資本を株主に返したとしたら、ROE はどう変わるかを試算できます。ここでは2つの仮定を置きます。
- 売ったお金のうち7割が手元に残るとする。実際に税がかかるのは、帳簿の上の取得価格を超えた含み益の部分だけ。含み益が大きい株ほど税は増え、取得価格に近い株ならほとんどかからないので、7割はおおまかな仮定
- 保有株から受け取っていた配当も無くなる。受取配当は営業外収益に含まれるが、単独の科目として取り出せないので、保有額の2%を受取配当とし、税引後(7割)で利益から差し引く
受取配当を差し引かないと、利益はそのままで資本だけが減るので、ROE の改善を大きく見せすぎてしまいます。配当の利回りの仮定(2%)は、持っている株の実際の利回りに合わせて変えてください。
計算例
投資有価証券が300億円、3期前が400億円、純資産が1,000億円、純利益が60億円の会社なら、保有株の純資産比率は30%、3期の削減率は25%です。ROE は6%です。保有株を手放すと、資本は7割分の210億円減って790億円、利益は受取配当の税引後4.2億円が減って55.8億円になり、ROE は約7.1%に上がります。
この差が大きい会社ほど、保有株が資本の効率を押し下げていることになります。余った資産を差し引いて事業の価値を見る考え方は、「現金と投資有価証券を差し引いた「実質 PER」:資産の厚い日本企業を正しく比べる」でも紹介しています。
読み方
- 比率が高く、削減率も高い:削減を進めている途中。今後も続くかを確かめる
- 比率が高く、削減率が低い(マイナス):削減が進んでいない。保有の理由の説明が求められやすい
- 比率が低い:持ち合いが少なく、資本が事業に使われている
経営企画・IR での使い方
自社と競合の削減率を並べると、自社の削減のペースが市場からどう見えるかが分かります。中期経営計画で削減の目標を立てるときは、「3期で何%」という形で、競合の実績を目安にできます。ROE への影響の大きさは、「ROE を3つに分けて読む:デュポン分析の考え方」の考え方で分けると説明しやすくなります。
注意点
- このプリセットには、持ち合いの株式だけでなく、関係会社の株式(持分法の投資など)も含まれる。事業として持つ株式も入る点に注意する
- 投資有価証券の残高は、株価の上げ下げでも動く。株価が大きく上がった期は、売っていても残高が減らないことがある
- 詳しい内訳は、有価証券報告書の「株式の保有状況」で確かめる
- 銀行・証券・保険は、有価証券が本業の資産なので外す
企業データラボなら、政策保有株の削減の進み具合を全上場企業で追いかけられます
企業データラボでは、過去の期の残高を「[3]」で参照できるので、3期の削減率を1つの式で書けます。式を一度作れば約3,700社すべてに当てはまり、保有株の比率が高いのに削減が進んでいない会社を絞り込んだり、自社と競合の削減率を同じ表に並べたりできます。
保有株を手放したときの ROE の試算も同じ表に並べておけば、決算のたびに、削減の進み具合と資本の効率への影響を同じ物差しで追いかけられます。
政策保有株の比率と3期の削減率を、競合や投資先と同じ表に並べて確かめてみませんか。
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