
のれんの減損リスクと M&A への依存度:3年平均の利益で何年分かを測る
企業データラボ
M&A で積み上がったのれんが、本業の利益の何年分にあたるかを計算する式を紹介します。営業利益は3年平均でならし、純資産に対するのれんの重さと組み合わせて減損のリスクを点数にし、3年でののれんの増え方から成長の M&A への依存度も確かめます。
M&A で膨らんだのれん、いつか大きな減損にならないか気になっていませんか
- この会社ののれんは、本業の利益の何年分にあたるのか
- 減損が起きたら、純資産はどれだけ目減りするのか
- 会社の成長は、どれだけ買収に頼ってきたのか
M&A を重ねてきた会社の貸借対照表には、買収した価格と相手の純資産の差である「のれん」が積み上がっています。買収した事業が想定どおりに稼げなくなると、のれんは減損され、一度に大きな損失になります。
こうした問いに答えるには、のれんの残高だけでなく、何年分もの営業利益や売上高をさかのぼって比べる必要があります。1社なら有価証券報告書を数冊開けば済みますが、競合や投資先を何十社も並べるとなると、手作業では追いつきません。しかも1年の営業利益と比べると、たまたま利益が少なかった年には「回収に何十年もかかる」という極端な結果になり、特需のあった年には安全に見えすぎます。
3年平均の利益と純資産を物差しにすれば、のれんの重さが測れます
考え方の要点は、のれんを「3年平均の営業利益」と「純資産」の2つと比べることです。3年の平均の営業利益と比べれば、その会社がふだん稼いでいる力に対して、のれんがどれだけ重いかが分かります。2つを点数にまとめれば減損の警戒度になり、のれんの増え方を売上の増え方と比べれば、M&A への依存度も見えてきます。
のれんの重さを測る2つの物差し
のれん回収年数は、のれんを3年平均の営業利益で割ったもので、「今の稼ぐ力のままなら、買収で上乗せして払った分を何年で稼ぎ出せるか」の目安です。会計の上でのれんを何年で償却するかとは別の物差しなので、混ぜずに読みます。
日本の会計基準では、のれんを20年以内の期間で毎年償却し、その費用は営業利益から引かれています。一方、IFRS ではのれんを償却しません。そのため、同じ事業でも日本基準の会社は営業利益が償却の分だけ小さく、回収年数は長めに出ます。基準の違う会社どうしで比べるときは、この差を頭に置いてください(基準の違いは「日本基準と IFRS の企業を比べるときの注意点」で説明しています)。
2つを合わせて減損の警戒度にする
- のれん回収年数:5年で警戒0、20年で警戒1
- のれん純資産比率:20%で警戒0、100%で警戒1
- 2つの平均を100点満点にする
計算例
のれんが600億円、純資産が1,000億円、営業利益が直近3年で100億円・80億円・90億円の会社を考えます。3年平均の営業利益は90億円なので、のれん回収年数は約6.7年です。のれん純資産比率は60%です。警戒度は、回収年数の点が約0.11、純資産比率の点が0.5で、平均すると約31点になります。
回収年数だけを見ると落ち着いて見えますが、純資産の6割がのれんという点は見逃せません。減損が起きると自己資本が大きく減るため、財務の安全性にも響きます。
成長はどれだけ M&A に頼っているか
のれんの水準に加えて、3年でどれだけ増えたかを売上の増え方と比べると、成長のうちどれくらいを買収で手に入れたかの目安になります。買収は毎年あるわけではないので、1年ではなく3年の変化で見ます。
売上を1円増やすのに、のれんを何円積み上げたかを表します。0に近ければ自力の成長が中心、大きいほど買収で売上を広げています。たとえば、3年でのれんが480億円から600億円に増え、売上高が800億円から1,000億円に増えた会社では、のれんの増加は120億円、売上の増加は200億円で、売上1円あたり0.6円ののれんを積んだ計算です。
使い方の例
- 投資家:のれんの大きい会社を警戒度で並べ、決算説明資料で買収した事業の業績を確かめる
- 経営企画:自社と競合ののれんの重さと増え方を比べ、M&A の規模やペース、自力の成長と M&A のどちらに頼っているかの目安にする
- M&A の検討:買収の候補ののれんが大きい場合、過去の買収の成果を確かめる材料にする
注意点
- のれんは買収価格のうち、相手の純資産を超えて払った部分だけ。純資産に近い価格で買った M&A はのれんがあまり増えないため、のれんの増え方は M&A への依存を小さめに見積もる
- 日本基準ではのれんの償却で毎年残高が減る。買収をしなくてものれんは減っていくので、のれんの増加がマイナスでも M&A が無かったとは限らない
- のれんの減損をした年は、のれんが大きく減る。増加がマイナスの会社は、減損や事業の売却が無かったかを確かめる
- 営業利益は全社の利益。のれんを持つ事業だけの利益ではないので、セグメントの情報もあわせて見る
- 直近3年で営業利益が赤字や0に近い会社は、回収年数が極端な値になるか空欄になる
- 警戒度は減損が起きることを示すものではなく、確かめる優先順位を決めるための目安
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企業データラボでは、のれんと過去の期の営業利益・売上高を「[1]」「[3]」のように参照して、1つの式で組み合わせられます。式を一度作れば、約3,700社すべてに同じ定義で当てはまり、減損の警戒度や M&A への依存度で並べ替えたり、警戒度の高い会社だけに絞り込んだりできます。
自社と競合を同じ表に並べれば、のれんの重さと増え方の違いがひと目で分かります。決算が更新されれば、3年平均もその都度計算し直されます。
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